映画「屍者の帝国」 雑感

伊藤計劃の作品映像化の第一作目「屍者の帝国」を観てきたので感想を書きます。なお私は原作を読んでから映画を見たこと、以下の記事はネタバレを含むことを最初に断っておきます。

 

まず、映画ですが「脚本は非常にテンポ良く収まっていて、映像音楽共に良かった」という感想です。キャラクターデザインは好き嫌いがあるでしょうが、風景や星空などはかなり力が入ってました。初めのフライデーを屍者化するシーンがドキドキするとともに綺麗でお気に入りです。(私が主人公が禁忌を犯すシーンが好きというのも大いにありますが)下の画像がそのシーン。

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公式サイト(「Project Itoh)のPVで屍者化過程の一部が見れます。細かいところもこだわっていて、機械がガチャガチャ動くの好きな人は楽しめる映画だと思います。

 

声優の演技も(あまり詳しくないんですが)良かったです。PSYCHOPASSの常守朱ハダリー!?と思って心配してましたが大丈夫でした。すこし幼さはありましたが。ワトソンとフライデーに関しては文句なし。フライデー叫び過ぎ。

バーナビーはもっと野太い声を想像してたんですが、原作よりも人情味あふれる演出だったので少し貫禄を抑えたくらいで正解だったかもしれません。

Mはあれですね、やってることは小物なんですけど声のせいですごい大物感あります。すごい。

あと、これは見た人に聞きたいなあと思ってるんですけどカラマーゾフがワトソンに「あなたはどうして手記を求めるのです?」と聞くシーンで「求めるのですぅ」に聞こえて笑ってしまったのは私だけでしょうか。

 

内容に関してですが、フライデーをワトソンの友人に設定変更したのは個人的には正解だったと思います。

原作の「優秀な医学生が突然教授に呼び出され英国の諜報員になる」という筋書きよりも「禁止されていると知りながらも友人を屍者化し、国にそれを黙認させる代わりに危険地帯で諜報活動させられる」という方が自然な気がしますし、その後のワトソンの葛藤も原作にはない面白さでした。

ただフランケンシュタイン三原則に触れていなかった(言葉は出たかもしれませんが、内容説明は無かったはず)ことは残念でした。

この設定があるから「屍者=ロボット」という関係を強く意識し、アンドロイドであるハダリーの存在が意味をもってくると思います。また、擬似霊素=プログラムなのですから、同じプログラムで構成されているハダリーが屍者をコントロールできるのもハッキングのようなことをしていると思えば無理はないかなと。(音波を使って脳をハックはトンデモな感じもしますが)

ロンドンやボンベイの町で屍者が労働しているのを見て上述の比喩に気づく人がいるかと思いますが、「自分には無理だなあ」と思いました。

「屍者=ロボットで、全球通信網=Webと考えるとザ・ワンは最初の人工知能で云々、あれ?これターミネーター3?」と思って「これってSFだな」と気づきました。(原作のジャンルがSFなんだから当たり前なんですけど)

菌が云々の話を省略してたので最期がハチャメチャで何がなんだかってなりました(というか原作もよく分からなかった)がザ・ワンが花嫁欲しさに悪事を働いた程度の理解とあとは映像のすごさでモーマンタイかと。Mの悪事は大勢巻き込んどいて、そのくせ本筋に絡んでこない体たらくですが。

私が映画を見て感じた全体的な印象は「娯楽物」で、映画として楽しめたのですが、皆さんはどうだったでしょうか。

(映画なので娯楽物に仕上げたのは正解だと思いますし、もし真正面から魂に関して切り込んでいたら面白くなかったんじゃないかなと思います。そもそもそういう哲学的なことを表現するのに映像は向いていなくて、文章の方がいいというのが私の自論です。哲学的なことを考えるときは自分のペースが大事で、本から目を離し思考する時間が必要です。映像はそういう時間を設けることができませんし、見てる側も完全に受身ですから中空を見て考え事にふけったりしないわけです。そんなことしてたら物語に置いていかれます。以上脱線話)

あとホームズ好きのすごくどうでもいい苦情なんですけど、Mはマイクロフトっぽく描かれているのでその後ホームズ&ワトソンのタッグが出来るとすると敵役でしかも死ぬのはちょっと・・・

それとこれは原作にもいえるんですけど、ハダリーとワトソンがいい感じだったのならハダリーはアドラーじゃなくてモースタン夫人を名乗って欲しかったです(モースタン夫人?だれそれ?ってなりそうですが。というかハダリーが4つの署名に出てくるのも無理有りすぎですかね。火炎放射器ぶっ放してましたし。)

ワトソンがアフガンに派遣されて、その後足打ちぬかれて杖ついてたり、トマス・エジソンが霊界との交信機作ってたり、バーナビーが下着じゃないから恥ずかしくないって言ったり「分かる人は分かるネタ」も豊富で楽しかったです。あとハダリーの胸が人外のそれで見るたび「どうなってるんだ」と気になる。(いやらしい意味じゃなく)

 

長々と書きましたがいい映画です。これぞアニメーションのすごさ、おすすめです。

(いろいろ忘れている部分があるので原作を読み直そうかと、気が向いたら屍者=ロボトの部分のような考察をしてみようかと思います。)

 

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